2016年7月4日月曜日

孫正義から電撃出資を受けたインドネシア青年起業家

孫正義社長が一目惚れして、筆頭株主になったインドネシアのeコマース最大手「トコペディア」。英語もネットもない片田舎で育った33歳の青年:William Tanuwijayaが、知られざる創業物語を語る。


──インドネシアでeコマースを手がけるベンチャー企業を作ろうとしたきっかけは何だったのでしょうか。

 僕はインドネシアの小さな島で生まれ、貧しい家庭で育ちました。高校を卒業すると、もっと良い暮らしをしてほしい思った父と叔父が、首都ジャカル タの大学に行かせてくれました。ただし生活費を稼ぐため、午後10時から午前6時までインターネットカフェでアルバイトをしていました。そこで、インター ネットについて自力で学ぶようになりました。

 2003年に大学を卒業すると、ソフトウェアの会社を経て、モバイル関連の企業で働いていました。その時にインドネシアのeコマース市場には大きく2つの問題があると感じたのです。

 1つ目は、インドネシアには1万7000もの島々があります。そのため人々がお金を払っても、肝心の商品が送られて来ないといったケースが多かっ た点です。2つ目は、個人が自由に商品を販売することのできるプラットフォームがなかったという点です。そこにチャンスがあると思いました。


──そこで会社を辞めて、09年にTOKOPEDIA「トコペディア」を起業することになったんですね。

 はい。「インドネシアのeBayになりたい」と、07年から僕のアイディアを会社の上司に提案していました。しかし、それは却下され続けました。

 実際に起業しようとしても、私はよく出自や経歴を聞かれました。裕福な家庭では育っていないし、大学はほとんど行かずにネットカフェで働いていました。だから、誰も信じてくれませんでした。

 「大きな夢を見すぎるなよ。スティーブ・ジョブズのような人は特別なんだよ。君の時間をもっと効果的に使えよ」と言われました。どうしてインドネシア人は、自国の若い起業家を信じられないんだろうかと悲しかった。そして絶対に諦めないぞと誓いました。

 09年、元勤務先の上司が出資を決めてくれたんです。それで「トコペディア」が生まれました。あれから毎年のように米eBayや楽天グループ、現地通信大手テレコムなどの新規参入が続いていますが、それでもこの5年間、この会社を続けてこられています。

──インドネシアでは手本とするIT起業家が見当たらない中で、何を頼りに起業したのですか。

 当時はインターネットで、どうすればインドネシアに安全なeコマースのサービスを提供できるか調べていました。そこで中国アリババのジャック・ マーさんや、ソフトバンクの孫さんを知りました。彼らについて書かれた本も読みました。この2人は私のヒーロー。孫さんが創業時に「豆腐のように1丁、2 丁と売上高を数える会社を作る」という話もそこで読みました。


 インターネットが素晴らしいのは、直接その人に会わなくても、その人から学んだり、影響を受けたりすることができる点です。

 英会話も10年までまったくダメでした。会社が成長する中で、ベンチャーキャピタル(VC)の人々との面談の中で英語を習得したんです。ベストを 尽くしましたが、米国のVCはまったく理解してくれなかったですね。日本のVCのメンバーは我慢して、なんとか分かってくれようとしていました(笑)。


──創業から5年目だった昨年の10月、ソフトバンクの孫社長から突然連絡を受けたとか。

 孫さんから呼び出されたのは、面談日のわずか2〜3日前でした。インドネシア人は、日本に入国するためにはビザ(査証)の取得が必要で、申請するために5日間は掛かかるのに、です。

 ところが、偶然にもまったく同じタイミングで日本に行く予定があったのです。私には8年間付き合っている彼女がいて、その週に日本への婚約旅行を計画していました。

 とはいえ、婚約旅行というわけにはいかなくなったので、一旦は「一緒には行けなくなった」と彼女に伝えたんです。でも、やはり急遽、彼女とも行くことにして、10月1日に大阪で彼女にプロポーズをしました。その直後に東京に飛んで、孫さんに会いました。

 孫さんに会うのは、それが2回目でした。約1時間のミーティングで、多くのアイディアやアドバイスを貰いました。その時まで、まさか孫さんから出資をしてもらえると思っていませんでした。

 孫さんは忙しい人なので、スケジュールは変えられません。もし婚約旅行のためにビザを取っていなかったら、おそらく孫さんには会えていなかったでしょう。彼女へのプロポーズと、孫さんからの出資話が重なった、最高にクレイジーな1週間でしたよ。

情報元:DIAMOND Online

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