2016年8月31日水曜日

セブンイレブンがIT教室


アデ・イルマヤンティさんはこれまで、地元のセブンイレブンについて、10代のたまり場としかみていなかった。

 その後、彼女やその他の母親たち数十人は週3回、夜間にここを訪れ始めた。HTML、ジャバスクリプト、その他のコーディングスキルを学習するためで、インドネシアのスタートアップ(新興企業)ブームに乗ることを目指している。インドネシアはジャワコーヒーなども有名だが、別の「JAVA(ジャワ)」も売ることになる。


 「アルバイトしてお金を稼ぎたかった」とイルマヤンティさん。彼女は3人の子供をもつ43歳の母親だ。コーディング(コンピューターソフト、アプリ、ウェブサイトを動かすアーキテクチャ)技術を学習することによって、「遠隔でウェブサイトのメンテナンスができるから、自宅にいながらパートタイムで働ける」という。

 開発途上国では何百万人もの人々がコーディングを学習しており、中産階級に仲間入りする収入の手段にしようとしている。インドネシアでは、そのニーズは高く、コーディングを教える家内工業的な教育ビジネスが誕生している。標的は主として若者だ。

 しかし、セブンイレブンの学習プログラムが標的にするのは、若者ではなく、母親という新たな人口層だ。

 このプログラムの開発を手助けしたのがインドネシア・セブンイレブンのフランチャイジー(営業権を与えられた加盟店企業)のディレクター、イザク・ジェニー氏だ。同氏は、インドネシアのハイテク技術者不足と、未開拓の労働資源のマッチングに乗り出した。同氏は政府機関を説得して、「コーディング・マム(母親)」というプログラムの具体化を支援した。ジェニー氏はその後、インストラクターと契約し、首都ジャカルタ市内と郊外でセブンイレブンの店舗を選んで、母親たちが学ぶ教室にした。ジャバスクリプトという、別の「ジャバ(ジャワ)」を売るのだ。

 セリアル・アントレプレナー(連続起業家)でもあるジェニー氏は「彼らの中にはトップの大学を卒業した人もいる。ある人は(米カリフォルニア大学)バークレー校に通っていた」と述べた。しかし、「彼女らは自宅で子供といるだけということが多い。それは悪いことではないが、もっとカネが必要な人が少なくないかもしれない。そこで彼女らは自宅にいながら仕事ができる、とわれわれは考えた」という。


 レッスンが行われるセブンイレブン店舗の2階のオフィスは簡素で、ハイテク感が漂うカリフォルニア州のアップル本社とはかけ離れている。だが、インドネシアのセブンイレブンでコーディングを学ぶというのは、思うほど奇妙でないかもしれない。他国のコンビニと違い、インドネシアのコンビニは近年、コミュニティーのハブとして台頭してきたからだ。

 家族はコンビニに長居し、インスタントヌードルやホットドッグを食べることがしばしばだ。ティーンエイジャーは夜遅くまでたむろし、外の椅子に腰掛けたり、コーヒーを飲んだり、無料のWi-Fiを使ったりしている。

 そこにコーディング・マムができた。

 このプログラムの支援者たちは、これをより多くのセブンイレブン店舗に広めようとしている。そうすることで、プログラミングできる人材の宝庫として確立しているインド、ベトナムやフィリピンにインドネシアが追いつけるようになることを期待しているのだ。セブンイレブンと協力する政府機関の代表を務めるトリアワン・ムナフ氏によると、インドネシアはハイテク・クリエーティブ業界の人数を現在の1240万人から2019年までに60万人増やすことを目指しているという。


 インドネシアにコーダー(コーディングができる人)とハイテクエンジニアの需要があることは明らかだ。

 例えば、相乗りサービスのGo-Jek社は今年、インドのソフトウエア開発会社を2社買収した。国際的な人材を確保するためだった。同社のライバルであるウーバー・テクノロジーズは米国でコーディングスキルのあるインドネシア人を探し、インドネシアに連れて帰ることを目指している。

 ムナフ氏は「われわれは現在、コーダーを必要としているが、将来はもっと必要になるだろう。自国の人材でニーズを埋め、インドから人を連れてこなくてもうよくなるようにしたい」と話す。

 マイクロソフトが2015年に実施した調査によると、インドネシアの高校生と大学生の90%超はコーディングを学びたいと考えている。だが、それを教える学校はほとんどないため、コーディングを教える学校、いわば家内工業的な教育ビジネスが盛んになっている。

インドネシアのネットとスマホ人口 ENLARGE
インドネシアのネットとスマホ人口
 今夏、ジャカルタにある人気のコーディング学校である「コーディング・インドネシア」に入学した人の数は、昨年比で2倍近くに増えたという。マネジャーのワヒュディ氏(多くのインドネシア人がそうであるように、姓と名ではなく、一つの名前だけを使っている)が明らかにした。

 多くのハイテク企業は、中国とインドの次に成長する可能性のある国としてインドネシアに注目する。調査会社のイーマーケターによると、東南アジア最大の経済国である同国は今年、インターネット利用者が1億人に達するという節目を迎えると予測されている。うち半数以上はスマートフォンを通じた利用だ。政府当局者は、同国の電子商取引の規模が20年までに10倍拡大し、1300億ドル(約13兆3000億円)に達すると予想する。

 IT(情報技術)関連の従業員の給与は比較的良い。求職サイトのジョブプラネットの最近の調査によると、インドネシアのIT従業員の平均月給は約302ドルと、同国の最低賃金である144ドルを大幅に上回る。

 コーディング・マムの卒業生たちは、既にスキルを仕事に生かしている。

 冒頭のイルマヤンティさんは、インターネットベースのサービスプロバイダーを共同で設立した。別の卒業生は、自ら立ち上げた新しいウェブサイトを通じ、コーランからの引用を刺しゅうして額に収めたものを販売する計画だ。

 これらの母親たちは家庭でも努力している。イルマヤンティさんは自宅でコーディングの授業の見直しをしていると、子どもたちに何をやっているのかと聞かれた。そのとき、彼女は「お母さんにも宿題があるの。あなたたちのようにね」と答えた。

情報元:Wall Street Journal

0 件のコメント:

コメントを投稿